人物
坂下羊子(19)読者モデル
釜田瑠偉(28)芸人
坂下蛇子(35)羊子の母
坂上零子(38)マネージャー
山上星羅(19)新人アイドル
上原うさぎ(22)読者モデル
銭山(38)カメラマン
大関(26)アシスタント
雲上(39)芸能事務所社長
女子大生1
女子大生2
メイクアップアーティスト
#1◯パソコン画面
光るメガネをかけ、赤い鼻がついているアニメキャラが画面で喋っている。
羊子「みなさん、こんにちは!羊子です。もう最近は私が昔何やってたか知らない人がほとんどだと思うんですけど」
#2◯羊子の部屋
PCの前で座って喋る坂下羊子(23)
六畳一間の部屋。部屋の電気は消えていてデスクライトだけがついている。
羊子「私、実は昔モデルをやってたんですよね。今日はそのあたりのことをお話していきたいと思います。」
PCの脇に飾られているたくさんの写真。釜田瑠偉(28)と坂上零子(38)と羊子の3ショットがクローズアップ。2018年と表記?
(時系列が分かりづらい)
羊子「コロナウイルス収まりませんね〜」
ワンショット別で入れる?
ナレーションor説明テロップ?
喋っている羊子の机の上に何者かがコーヒーカップを置く。羊子が笑顔で振り返る。
#3◯渋谷スクランブル交差点
渋谷スクランブル交差点。建設中のビル。チラシ配りをしている人。「道は開ける」と書かれたチラシが捨てられている。チラシには『うさぎ真理教全信者集会2018』『申し込みはイマスグ』と表記。
踏まれるチラシ。
#4雑居ビル 外観
アスファルトの隙間から生える雑草。
花の蕾。踏まれる雑草。高層ビル。
雑居ビル。
羊子がチラシを手に走ってくる。
#5◯撮影スタジオ
ビル外観。羊子がダッシュで画面に入ってくる。階段を降りていく。羊子の手にはコンポジ(履歴書)の束。メイクアップアーティストが釜田の鼻に赤くて丸い鼻を装着する。
零子が離れた所で下を向いてiPadを触っている。キョロキョロと周囲を見回しながら慌てて入ってくる。零子は羊子を睨みつけ舌打ちする。
真っ白い撮影用のホリゾントでだるそうに撮影準備する銭山(38)が大関(26)に目で合図を送る。
大関「では、オカマダロボコさん入ります。」
釜田「(オカマ声で)よろしくお願いします。」
釜田がカメラを持つ銭山の前に立つ。
唾を飲み込む羊子。(ワクワクした顔)
釜田は光るメガネを装着する。真剣な顔が突然面白い顔に変わる。
釜田「(オカマ声で)そう!そこよ!
うん!すっごく良いわ!」
画面がカメラのファインダー風に切り替わる。リズミカルなシャッター音と共にオカマポーズを決めている釜田。
羊子は釜田の方を食い入るように見る。
零子は興味を示さず下を向いてiPadを黙々と触っている。
羊子「釜田さん、凄いですね。一瞬でスイッチ切り替わった。」
羊子の持つスマホのカメラ越しにオカマポーズを決めている釜田。
零子「あなた、それ、どうするつもりよ?」
羊子「え、SNSにあげようかと…」
零子は羊子のスマホを取り上げ睨みつける。
零子「あんたバカ?1枚の写真に何人が関わってると思ってるのよ」
羊子の声「す、すみません」
釜田の顔のアップ。突然、笑顔から無表情に切り替わる。
釜田は光るサングラスをかけ直す。
釜田「アイ、ハ、チキュウ、ヲ、スクウ。アイ、ハ、チキュウ、ヲ、スクウ」
ロボットみたいにカクカク動きながら無表情で喋る釜田。
周囲から聞こえる爆笑の声。
釜田を見つめている羊子も思わず笑う。
零子は笑う羊子を見て呆れ顔で溜息を漏らす。
#6◯路上(原宿)
ちょっとコミカルなBGM。原宿駅前の様子。人通りが多い道。周囲にはオシャレなブティックが立ち並んでいる。
カメラをぶら下げた銭山と羊子が並んで歩いてくる。大関が荷物を抱えて後から走ってくる。
歩きながら手元の書類を見る銭山。プロフィール欄には『坂下羊子』と書かれている。
歩きながら自己紹介をする羊子。
羊子「(笑顔で)サカシタヨウコです!羊の子と書いてヨウコと読みます。あっ自分、ひつじ年生まれで四国から出てきました。」
銭山の前に立って遮りながら強く宣言する羊子。
羊子「将来は超一流のモデルになりたいです!」
一瞬立ち止まるが、失笑し、羊子を追い越す銭山。
追いつこうとする羊子。
羊子「あっカメラマンさんは普段、どんな作品を撮られているんですか?」
銭山「(面倒くさそうに)は?別に。作品ってほどのものは…」
羊子の方を見ようともせず、歩きながら手元のカメラを見て操作する銭山。
大関どうする?
羊子「やっぱりモデルさんが多いんですか?あっ女優さんとかも…」
銭山「あ〜そこに立ってくれる?そう、笑顔で〜」
銭山の様子を伺いながら笑顔でポーズを決める羊子。
響くシャッターの音。
銭山「(面倒くさそうに)はい。お疲れさまでした〜」
羊子「え?今ので?いや、このポーズも撮って貰えませんか?」
銭山「あっ、もう大丈夫っすよ。ありがとうございました。」
下を向く羊子。
#7◯羊子の実家 食卓(回想)
六畳一間の部屋。中は散らかっていてゴミ袋が積まれたままになっている。テーブルの上にはコンビニ弁当。学制服姿の坂下羊子(18)が食事をしている。チラチラと様子を伺った後、羊子がこちら(カメラ)を見る。
羊子「お母さん、あのね、私ね、高校卒業したら東京に行こうと思ってるの」
蛇子の声「はあ?家を出るってどういう事?」
不安そうな羊子の顔。
蛇子の声「あんたに自立なんて無理!」
羊子は無表情でこちらを見る。
蛇子の声「お前はたった一人の母親を捨てるつもりか?これまで育ててやった恩を仇で返すつもりか?この親不孝者!」
羊子は無表情で下を向く。
3秒後、羊子は顔を上げる。
羊子「違うの。そっちのほうがお家にお金を入れられるって思って。」
ゴミだらけの部屋。
回想終わり
#8◯路上(原宿)
下を向いていた羊子は顔を上げ話す。
羊子「いや、私が作品として残したいのは…」
大関「あっ、うさぎさん、こっちですよ。見えます?」
電話しながら羊子を睨みつける大関と呆気にとられる羊子。
大関は笑顔に切り替わって他方を見て手を振る。
大関「あっ、こっちです。」
羊子「私が作品として残したいのは…」
上原うさぎ(24)が入ってくる。
大関「次は上原うさぎさん、入ります。どうぞ〜」
うさぎ「ちょっと、邪魔なんだけど?」
その場に留まろうとする羊子。
大関「ちょっと!時間無いんだから早くどいてよ」
渋々カメラフレームから出ていく羊子。
うさぎ「うざ」
カメラに気づくと突然、猫を被ってうさぎのモノマネをするうさぎ。
銭山「お、うさぎちゃん久しぶり〜。お〜いいね〜。相変わらず可愛いね〜」
ノリノリでポーズをとるうさぎ。
悔しそうにしている羊子。
#9◯河川敷(多摩川)
BGMがスタート。
空、河川敷の道、石ころ、緑、花、道。(淡く穏やかで明るい色彩)
羊子が一人で踊りながら歌っている。周囲に人はいない。
空、道、石ころ。
遠くで見えるタワーマンション群。
羊子「…」
遠くを見つめる羊子。
羊子「東京〜」
遠くに見えるタワーマンション群。
タイトルコール
「キミは代替可能品?」
#10◯撮影スタジオ
赤い背景紙がセットされたスタジオ。
オカマの格好をしている釜田はカメラの向こうでポーズを決めている。
銭山は釜田を楽しそうに撮影する。
大関が釜田の洋服の乱れを直している。
真剣な表情で釜田を見つめながらメモを取る羊子。
釜田「そう!いいわよ!もっときて!」
メモを取りながら何度もうなずく羊子。手元のメモには『なりきる事が大事!』
銭山「はい!オッケー!」
大関「ロボコさん、お疲れさまでした」
釜田が羊子の方に歩いてくる。
羊子「お疲れさまでした」
羊子は釜田と一緒にスタジオから外に出る。羊子の肩に添えられる釜田の手。
笑顔の釜田。
羊子は嬉しそうに見つめる。
#11◯羊子の部屋 夜
ベットで寝転んで電話をしている羊子。
羊子「ママ?私ね、雑誌に載ったんだよ!え?ああ。ファンジブルって雑誌よ」
机の上に置かれた雑誌。ストリートスナップのページの隅っこに小さく羊子が写っている。
蛇子の声「そっか〜凄いなあ羊子。あんたは私の誇りだよ。さすが私の子だね。」
羊子「今日ね、ライブ配信するの。1899モールで。スマホで見れるんだよ。」
蛇子の声「へえ〜幾ら儲かったの?」
羊子「いや、全然大したことないよ」
蛇子の声「またまた〜そんな謙遜しなくていいよ。…ギャラはいつ振り込まれるんだい?」
羊子「…え?どうしてそんな事聞くの?」
蛇子の声「あ、あんたもまだ子供でしょ。ママがちゃんと管理してやんないとと思って。」
× × ×
ソファーに座って歯ブラシをくわえている羊子。服がパジャマ姿に変わっていて
部屋の電気は消えている。
画面にはtwitterらしきサイトが表示されている。
スマホ画面を見る羊子。
羊子の脳内では書き込まれた声が再生される。
女子大生1の声「このモデルさあ、なんか痛いよね」
女子大生2の声「わかる〜この空回り感!」
女子大生1の声「読者モデルのくせにね(笑)」
羊子「読モは通過点だもん!」
ベットに倒れ込み、スマホをベットに投げつけ枕に顔を埋める羊子。ため息をつく。
羊子「うざ」
暗転。
#12◯真っ黒い空間(回想)
不穏な効果音。
蛇子の声「ああ?東京へいく?お前、自分だけ幸せになるつもりか?モデル?そんなんでやっていけるわけ無いだろ?お前はアタマが悪いんだ。変な夢を見るんじゃない」
#13◯公園(代々木公園)
羊子「夢見て何が悪いのよ!」
銭山の怪訝そうな顔。
はっと我に返った羊子。
羊子「あ…何でも無いんです。すみません…」
#14◯事務所 中
電話の音が鳴り響く。
事務所の中で零子が電話を取っている。
零子「ウチの坂下が大変、失礼いたしました。しっかり教育しておきます。はい。申し訳ありません。完全にウチの落ち度です。」
様子を伺っている羊子。
零子は電話を切ると羊子の方を向き溜息をつく。
零子「あんた、何様のつもりよ!」
羊子「いや違うんです。そんなつもりじゃ」
零子「なんであんたが、カメラマンに指図するのよ。なんで、あんたがポーズを決めるのよ。ふざけないで。」
零子はヒートアップして羊子に迫る。
羊子「いや、違うんです。ホントに!」
零子は机をバンと叩く。
零子「私の作品って何なのよ!」
羊子「あ…それは、その…」
零子は羊子にさらに迫る。
零子「いい?仕事ってのはね、クライアントの求めるものを提供することなの。」
羊子「はい…」
零子「あんたの気持ちを押し付けてどうすんのよ。そんなだから読者モデルなのよ。」
羊子は歯を食いしばり睨み返す。
#15◯道
ビルの前で羊子が立っている。
カバンを持った零子がビルの中から現れ、どこかへ向かおうとする。
羊子は零子に気づき駆け寄っていく。
羊子「零子さん、あの…この前は
すいませんでした。」
零子「え?あ、ああ。別に良いのよ」
羊子「いや、ギャラを頂いている
という自覚が足りませんでした」
零子「私に宣言したって何にもならないわ」
零子は立ち去ろうとするが、羊子が後から追いかけ、話しかける。
羊子「どうしたら、いいでしょうか?
私、頑張りたいんです」
歩きながら話す零子。
零子「さあね。でも、まずは自分が何者でも無いって事を認めることが第一歩かしら。」
羊子は立ち止まる。
羊子「…何者でも…ない?」
構わず去ろうとする零子。
羊子は再び追いかける。
羊子「それってどういうことですか?」
零子は立ち止まり笑顔で振り返る。
零子「あなたの代わりが幾らでもいるってことよ」
羊子は唇を噛んでいる。
#16◯車の中
後部座席に座って羊子が外を見ている。
釜田「どうしたの?元気ないじゃない?」
羊子「ちょっと、やらかしちゃって。
もうダメかも」
隣りに座った釜田が羊子を見る。
釜田「私、知ってるわ。あなたは頑張ってる
わよ。主張の仕方を知らないだけ」
羊子「…釜田さんみたいに優しい人ばっかり
だったら良かったんですけど…」
釜田「零子、言ってたわ。あの子の言う
ことも一理あるって」
羊子「…そうなんですか。」
釜田、羊子の両手を握る。
釜田「芸能界は見世物の世界。
強くなきゃ生き残れないのよ。」
羊子「強くなりたいです…」
釜田「私はね自分のことをコマの一つ
だって思うようにしているの。」
羊子は大きく目を見開き
唖然としている。
釜田は優しく微笑む。
釜田「…だってロボだもの」
羊子は寂しそうに笑う。
釜田「売れなくなったら、ロボット芸
なんて捨てちゃえばいいのよ。」
羊子「せっかくブレイクした芸なのに?」
釜田「私達は商品よ。売れなくなったら終わり。その時は私、マネージャーでも何でもやるわよ。」
羊子「私、そんな風に割り切れる
自信ないかも…」
釜田「私も自信なんて無いわ。私は運良く生き残っただけ。仕事があるだけで奇跡みたいなもんよ。でも…明日の事は分からない」
羊子「私、釜田さんは本物だと思います」
釜田「ありがとう。でもね、
それぐらい儚いのが芸能生命よ」
釜田「だから、辛いときはこう叫ぶの。
資本主義のバカヤローって。」
羊子は少し笑って目を見開く。
羊子「え?なにそれ?意味分かんない。」
釜田「いい?資本主義ってのはね。お金持ちが牛耳るこの世界のルールよ。芸能界だけじゃないわ。世界はお金で動いてる。だけど、おかしいと思わない?だいたい、お金は人類が生み出した道具よ。人類は道具を使いこなすどころか、道具に使われてるわ…」
羊子は不思議そうな表情で聞いている。
羊子「私…高校行ってないから
難しいことは…」
釜田「まあいいわ、一つだけ。一つだけ覚えときなさい。」
釜田は穏やか表情で羊子を見る。
釜田「辛いことがあったら遠慮なく言うのよ。溜め込んじゃダメ」
羊子は笑顔でうなずく。
釜田「私はあなたの味方よ。」
#17◯路上
銭山の前でポーズを決める羊子。
うなずく銭山。
#18◯撮影スタジオ
青い背景紙がセットされたスタジオ。
カメラの向こうでポーズを決める釜田と羊子。
銭山「はい!オッケー!ロボコ最高!」
釜田に抱きつく羊子。
羊子「ロボコちゃ〜ん」
戸惑う釜田。
× × ×
銭山の持つパソコンモニタに映る釜田と羊子。羊子が写真を指差し釜田に話しかける。
羊子「こっちのポージングどうだった?」
釜田「うん。良くなってるよ」
#19◯車の中
走っている車の中。後部座席に座り窓の外を見つめる羊子。
羊子を見た後、反対側の窓の外を見つめる釜田。
次第に目がとろんとしてくる羊子。車に揺られて眠ってしまう。
#20◯真っ暗な空間
蛇子の声「ちょっと、出かけてくるからね。いい子にしてるんだよ」
羊子「待って。お母さん、行かないで」
#21◯車の中
走っている車の中。
釜田の肩に寄りかかって眠る羊子。
突然目を覚ます羊子。
羊子「あ!ごめんなさい!」
釜田「あら、全然いいのよ。最近、あなた働き過ぎだもの。寝てないんでしょ」
羊子「すみません。」
釜田「何言ってるのよ。あなたは頑張ってる。私が保証するわ。どうして、そんなに頑張れるのか教えて欲しいくらいよ」
羊子「あ、いや…」
釜田「あら、言いたくなければ別にいいのよ」
窓の外を見る釜田。
うつむいて考えている羊子。
羊子「…お母さん。」
釜田「え?」
羊子「お母さんに家を買ってあげたいの」
窓の外を眺める羊子。
釜田は驚いている。
釜田「偉いね。親孝行だね。」
優しく笑う釜田。
#22◯写真
いろんな羊子の写真が出てくる。
色んな方向から様々な声が、被って聞こえてくる。
零子の声「まだまだダメね」
釜田の声「もっと大きく動けないの?」
銭山の声「うまくなったじゃん」
#23◯河川敷
女子大生1と2がスマホをみながら
喋っている。画面には羊子。
女子大生1「この子さ最近カワイイよね」
女子大生2「フォロワー増えてるもんね。」
ピッという効果音の後に画面右下にfollwerと表示。500から始まったカウンター数がどんどん増えていく。
#24◯スタジオ
零子は雲上(39)の隣に立ち、書類を指差して見せながら喋っている。雲上が腕を組んで頷きながら写真撮影をしている羊子を見る。
零子「羊子、ちょっと、そのポージングやりすぎじゃない?それじゃ、洋服が目立たないわ。」
羊子「零子さん、ABI TOKYOのテーマは『○○』です。私はやりすぎぐらいが丁度いいと思うんですけど。」
零子「いや、でも洋服が…」
雲上「いや!羊子の言う通りだ」
零子は少し考えた後、腕組みをする。
羊子「社長、ありがとうございます」
釜田が慌てて部屋に入ってきて羊子に駆け寄る。
釜田「羊子ちゃんフォロワー20万だよ!20万人!ついこの前まで2万人だったのに」
映像が早送りになっていきBGMの音量もどんどん上がっていく。
零子「羊子…分かったわ。」
零子と羊子の笑顔。
腕組みをして頷く雲上。
#25◯写真
画面に増えていく写真。色んな方向から様々な声が、被って聞こえてくる。
女子大生の声「あの、羊子さん、写真撮って
貰っていいですか?」
零子の声「調子に乗るんじゃないよ」
釜田「オカマロボ、コヒツジ、トモダチ」
零子の声「羊子、凄い!」
暗転。
テロップ「2年後」
#26◯羊子の部屋 夜
零子がウーバーイーツから届いた料理を袋から出してテーブルに並べている。
羊子は部屋の整理整頓をしている。
山上星羅(19)がホームパーティーグッズの飾り付けをしている。
星羅「ヨウコ先輩!これ、ここに飾り付けちゃう感じでいいですか?」
羊子「え?そんなものまで買ってきたの?大げさだなぁ」
遅れて釜田がやってくる。オカマメイクはしておらずスーツを着ている。
釜田「遅くなりました〜」
零子「あ、釜田くん、お疲れ様〜」
釜田「俺は何を手伝えばいいですか?」
零子「星羅の飾り付け手伝ってやって」
釜田「了解です。」
釜田はスーツのジャケットをポイと脱ぎ捨て、ネクタイを外し、白いシャツの第一ボタンを外し、腕まくりをする。
羊子「ちょっと、私が買ってあげたスーツ、大事に着てくださいよ?このK51ってブランド高いんだからね」
釜田「ああ、ごめん。俺、実はガサツで…」
零子「よく、あんな繊細な芸やってたわよね」
星羅「おい、釜田。早くしろよ」
羊子は星羅の方を怪訝そうに見る。
釜田は星羅と一緒に飾り付けをする。
釜田「あ、すみません、こんな感じでどうですか?」
星羅「うん。いいよ。零子さん、どうですか?」
零子「おーバッチリじゃん!どう、ヨウコ?」
羊子「うん、零子さん、バッチリ!」
零子「よし!じゃあ、みんな揃ったし、そろそろ始めますか」
零子、グラスに飲み物を注いでいく。
零子「このシャンパンは社長からのお祝いよ。行けなくて申し訳ないだって。」
星羅「あ、あと、これは私から」
ひつじ柄のスマホケースを星羅が手渡す。
苦笑する羊子。
羊子「…うわあ、ありがとう。と、特徴的だね」
零子「だからいったじゃない、微妙だって」
星羅「いいんですって!先輩には絶対似合ってます」
笑顔の4人。
釜田「とにかく、乾杯!」
星羅「ヨウコ先輩、おめでと〜〜」
一同「カンパーイ」
釜田は雑誌をパラパラとめくる。雑誌の表紙には羊子が写っている。
釜田「ほんと、羊子ちゃん、凄いよね〜表紙だよ、表紙!」
星羅「ねえねえ、釜田、ヨウコ先輩とツーショット撮ってよ」
星羅は釜田にスマホを渡す。
羊子「…釜田?」
× × ×
テーブルの上の食べ物は無くなっている。星羅は酔っ払っている。
星羅「おい!釜田、おかわり!あ〜あ。釜田がもっと仕事取ってきてくれたら、私ももっと露出できるのになぁ…」
羊子は手で机を強く叩く。周囲はびっくりして羊子を見る。
羊子「あんた、何様?」
星羅「え?だって釜田が…」
羊子「タレントがそんなに偉いの?勘違いしないで。あなたがステージに上がるために釜田さんがどんなサポートをしてくれているのか」
釜田「ヨウコちゃん、俺は別にいいから!」
零子「いや、ヨウコの言うとおりよ」
星羅「…ごめんなさい」
零子は笑顔で喋る。
零子「でもさ、この2年、本当にヨウコは成長したわよね。もうコヒツジだなんて呼べないもの。」
羊子「また〜〜!零子さん、馬鹿にしてるでしょ!」
零子「でも、あなたは偉いわ。ちょっとぐらい贅沢すればいいのに。」
羊子「いや、私…そういのは…」
星羅「先輩っていくら稼いでるんですか?」
零子は星羅を見る。
零子「あんたってヤツはホントに…」
羊子「お母さんが通帳管理してるから知らなくて…」
零子「知らないの?」
釜田「…最近、やたらと現場に顔出すようになったあの人ってお母さんなの?」
羊子「実は先月から一緒に暮らしてるんです」
釜田「え?ここで?今何してるの?」
羊子「いや、夜も仕事で…」
零子は不穏そうな顔で羊子を見る。
零子「もう、こんな時間よ?」
#27◯車の中
釜田が車を運転している。
星羅と羊子が後部座席に座っている。
星羅は下を向いている。
星羅「先輩はすごいですよね。」
羊子「どうしたの急に?」
星羅「だってそうじゃないですか。」
羊子「え?何が?」
星羅「…いつまで、くすぶってるんだろう。なんか、私じゃなくてもいい仕事ばっかり。ホント、沼だわ」
羊子「そんな事無いって!」
星羅「自分では前に進んでるつもりなんです。でも、もがいても、もがいても変わらない。実はなんにも前に進んでなくて沈んでるんじゃないかって。」
羊子「誰だってそんな気持ちになるもんよ。」
釜田「ちょっと気晴らしに散歩でもしてきたら?次の現場まで時間あるし。」
釜田の運転する車が停まり、ドアが開く。先に星羅が降り、続いて羊子が降りようとする。
釜田「羊子ちゃん」
羊子「え?」
釜田「相談乗ってやって。」
#28◯新宿御苑or代々木公園
BGMスタート。
散歩する星羅と羊子。
空、川、ビル。
花、道、ビル。
笑顔の羊子。
女子大生1「あのう、写真撮って貰えませんか?星羅さんと羊子さんですよね?」
女子大生1と星羅と羊子は3人で写真を撮る。
手を振る星羅と羊子。
お辞儀する女子大生。
女子大生1「わたし、星羅さん応援してますから!」
車の運転席から釜田は星羅を見ている。
羊子が釜田を手招きする。
釜田は手でNOとサインをする。
河川敷を歩く羊子と釜田。羊子は強引に釜田の手を引いて歩く。
羊子「私、釜田さんが居てくれて良かったなぁ」
釜田「俺の代わりなんて、いくらでもいるだろ。今はただのマネージャーだぞ」
羊子「ううん。釜田さんじゃないとダメ。」
釜田「それってもしや愛の告白ってやつ?」
羊子「釜田さんってホント面白いわね。」
釜田「なんだ、違うのかよ」
羊子「私は釜田さんが取ってきてくれた仕事だから頑張ろうって思えるの。」
うなずく釜田の顔のアップ。
釜田「そういえば、面白い話がきてたよ。NFTがどうのこうのって。」
羊子「…キレイな顔」
釜田の横顔。
釜田「なんか、よくわからないけど、ノン・ファンジブルなんだって」
羊子の方を見つめる釜田。
慌てて目を逸らす羊子。
釜田「ノン・ファンジブルってのは替えが利かないっていう意味らしい。」
羊子「釜田さんみたいね。」
心臓がドキドキする音。
#29○パチンコ屋 前
派手な格好でサングラスをかけた坂下蛇子(35)が歩いてくる。パチンコ店の中から出てくる。スマホで誰かと話している。
蛇子「ねえ、もうちょっとだけ、待ってくれないかしら。…利息だけ?いや、大丈夫!もうすぐまとまったお金が入るから」
#30○事務所 前
蛇子が事務所の中に入っていく。
#31○事務所 中
部屋の中の応接スペースで零子が落ち着かない様子で座っている。向かいに蛇子が足を組んで座っている。
蛇子は顔に大きな傷があり、全身に蛇のタトゥーが入っている。
零子は蛇子の前にA4の資料を置く。資料には『限定500着!羊子プロデュースワンピ』と書かれている。
零子「これは何ですか?」
蛇子「私に聞かれても…」
零子「お母さんですよね?これを販売しているの」
蛇子「急に呼び出したかと思えば、そんな事ですか?」
零子「羊子さんはウチの『所属タレント』なんです。勝手なことされたら大問題ですよ。」
蛇子「いいじゃない。ワンピースをちょっと作っただけじゃないのよ」
零子は怪訝な表情で蛇子を見る。
#32○事務所 (回想)
零子は自分のデスクを背にして座っている。羊子は零子の向かいに座って話している。
お金の振込先についての話
零子はなぜ、振込先が母親なのかを聞く
あなた、
家庭のことを零子に打ち明けなきゃいけない理由は?
零子「…そう。羊子も色々あるのね。」
下を向く羊子。
羊子「…お母さん、たまに別人みたいになっちゃうんです。優しいお母さんと怖いお母さん。どっちが本当なんだろう。」
零子は驚いた表情を見せるが、また元の優しい表情に戻る。
零子「母親も色々あるのよ。たった一人のお母さんなんだから大切にしなさい。」
#33○事務所 中
呆然としていた零子は顔を上げ蛇子に向かって毅然として言う。
零子「いえ、それが困るんです。彼女は広告塔。勝手にワンピースを出すなんてアパレルブランドからしたら裏切られたも同然ですよ。」
蛇子は腕組みをしてうつむいている。
蛇子「あ〜面倒臭い。わかった。じゃあ、もう辞めるわ」
零子「良かったです。理解して頂けて」
蛇子「いやワンピースじゃなくて事務所」
蛇子は立ち上がる。
零子「は?」
蛇子「事務所、辞めるわ」
零子は大きくため息をつく。
零子「いや、そんな簡単に言われても…」
蛇子「そもそも、ワンピースを勝手に作ってはいけないなんて聞いてないですよ。私は。」
零子「いや、それ…常識ですよ」
蛇子「それを言うなら、なんでこんなにギャラが少ないんですか?お宅、ウチの大切な娘をダシに使って儲けすぎてんじゃないの。常識で考えたらもっと貰えるはずだもん。」
部屋を出ようとする蛇子。
蛇子「今日限りで辞めさせてもらいますんで」
零子「いや、ちょっと待ってくださいよ。」
零子は蛇子に歩み寄る。
蛇子「だって、気に入らないんでしょ?」
零子「そんな簡単な話じゃないんです。ウチだけの問題じゃないんですよ。」
蛇子は振り返って睨みつける。
蛇子「知らないよ。変なのはあんたらの方」
零子「…そんな無茶な…」
蛇子「羊子は大切な、大切な、たった一人の娘なんだ。あんたらの道具じゃないんだよ。」
立ち去る蛇子。
#34○真っ黒な画面
電話の音が鳴り響く。
#35○車の中
運転しながら電話に出る釜田。
零子の声「大変よ!羊子が独立って…」
釜田「はあ? 羊子ちゃん、一言もそんな事言ってなかったよ?」
零子の声「お母さんよ…実は今日、お母さんにワンピースの件を伝えたの。けど、もう無茶苦茶よ。おかしいのは芸能界の方だって。」
釜田「えーーー?そんなの変だよ。なんでお母さんが?」
零子の声「社長に相談したんだけど、やっぱりあり得ないって…」
釜田「そりゃそうだよ。…で羊子ちゃんは?」
零子の声「それが分からないの。あの子がどんなつもりなのか。電話にも出ないし」
#36◯羊子の部屋
派手な格好をした蛇子が身支度をしながらスマホを耳で挟み喋っている。
蛇子「ねえねえ、今夜ヒマ?ご馳走してあげるから飲まない?」
スマホのバイブ音。
カバンから、羊子のスマホ(星羅にプレゼントされた羊のスマホケース)を取り出すと画面には『釜田くん』と表記。
蛇子「え?そうなの。新宿のどこ?」
無表情でもう一つのスマホを片付け、再び歩きながら楽しそうに話す蛇子。
蛇子「すぐ、そっち行くからね」
#37○事務所(夜)
机の前に座り話す釜田と雲上。
雲上「おい、一体何が起こってるんだ?」
釜田「母親が…突然、辞めるって」
雲上「はぁ?それで…羊子は?」
釜田「電話してるんですけど繋がらなくて」
雲上「明日の現場はどうするんだ?俺も顔出す事になってるんだぞ。」
零子が慌てた様子で部屋に入ってくる。
零子「大変です!羊子が…」
雲上は零子を見てうなずいた後、腕を組み、釜田の方を向いて喋る。
雲上「あいつ、もうダメだな。」
零子は驚いた様子で雲上と釜田を見る。
星羅が入ってくる。挨拶をしようとした瞬間に3人の様子に気づいた星羅は再びドアから出ていき隠れて様子を伺う。
零子「え?問題なのは親ですよ?」
雲上「違う!問題は羊子と連絡が取れない事だ」
零子「…え?でも…」
雲上「なぜ、突然こんな事になってるんだ?」
零子「それは親が勝手に…」
雲上「もし、初めから辞めるつもりだったとしたら?」
零子と釜田は下を向いている。
釜田の思いつめた顔。
星羅は隠れて見ている。
雲上「明日はお前が取ってきた大事な仕事だろう?もう時間がない。…すぐに代役を用意しておけ。星羅でいいな?」
零子「え?」
身を乗り出す星羅。手元の時計を見る。時間は21時を指している。
雲上「先方はタレントなんて誰でもいいんだよ。細かいことにこだわるな」
零子はうつむいている。
飛び出す釜田。
釜田に見つからないように隠れる星羅。
星羅は目の焦点が定まらない。
#39◯都会の道(夜)
張り詰めた表情で走る釜田。
#40○パーティールーム
飲んで騒いでいる蛇子。
バイブしている羊子のスマホに気づく。
スマホを見ると『釜田先輩』と表示。蛇子はスマホを操作する。画面には『着信拒否』と表示。
#41○羊子の家 玄関 外 (夜)
チャイムを鳴らす釜田。
釜田「もしもし?羊子ちゃん?」
ため息をつく釜田。手元の時計を見る。時間は22時を指している。立ち去る釜田。
#42◯都会の道2(夜)
夜の街を彷徨う羊子。
視線の先に公衆電話を発見する。
#43○通路
電話に出る蛇子。
羊子の声「…お母さん。」
蛇子「今、忙しいんだよ。また後で」
#44○公衆電話前(夜)
公衆電話の受話器を持つ羊子。
羊子「待って。わたし、事務所辞めたくない。だってみんな良い人だもん。」
#45○通路
蛇子「いいか。お前は騙されてるんだ」
#46○公衆電話前(夜)
羊子は呆然としている。
#47○通路
タバコを吸う蛇子。遠くから聞こえるカラオケの音を気にしながらイライラした様子。
蛇子「今忙しいんだ!もういいよ。お前は私を捨てて向こう側につくんだな?」
#48○公衆電話前(夜)
羊子の顔のアップ。
羊子「お母さん、私、そんなつもりで言ったんじゃ…」
#49○通路
蛇子の顔のアップ。
蛇子「お前、たった一人の母親を見捨てて自分だけ幸せになるつもりか?お前を育てるために幾ら払ったと思ってるんだ。なら、返せ。今すぐ返せ!」
#50○公衆電話前(夜)
羊子「違うの。お願い。分かって」
#51○通路
蛇子は凄んでいる。
蛇子「3000だ。今すぐ3000万持ってこい。そしたらお前を育てるために使った金チャラにしてやるよ」
#52○公衆電話前(夜)
羊子「そんなの無理だよ」
#53○通路
蛇子「じゃあ、黙って言うことを聞け」
画面暗転
#54○羊子の部屋(夜)
暗い部屋の中でベットで寝ている羊子。
目を開き呆然としている。
インターホンの音。
羊子は部屋の中の玄関モニターを覗く。玄関の前の星羅の姿。こちらの存在には気づいていない様子。
星羅「あっ先輩?ちょっと心配になったんで様子見に来ました」
躊躇した後、立ち上がる羊子。
#55○公園(夜)
ブランコに座って話す羊子と星羅。
公園の時計は0時を指している。
羊子「ホント、ごめん。明日の現場よろしくね。」
星羅「あ、ああ。それは良いんです。…先輩には辞めて欲しくないけど、仕方ないですよね。家族の事情だから…。」
羊子は黙って聞いている。
星羅「でも、何も事務所辞めなくても」
羊子「…」
星羅「お母さん、芸能は素人なんですよね?」
羊子「…」
星羅「こんな事いうのは気が引けるんですけど先輩のお母さんって…」
羊子は星羅の言葉を遮るように言う。
羊子「私は仕事より家族を大事にしたいの!」
星羅「家族?」
羊子「そう。家族が一番大事。だって仕事は…、ほ、ほら、私が明日、現場行けなくなっても代わりはいるわ。社長も言ってたんでしょ?」
星羅「…それは、まあ」
羊子は下を向いて自分に言い聞かせるように一人つぶやく。
羊子「そう。家族が一番…家族が一番よ…」
星羅は怪訝そうに見る。
星羅「家族…ですか。」
羊子は立ち上がり星羅に背中を向ける。
羊子「そう!だから、心配しないの!」
星羅は不審そうに羊子を見る。
羊子「事務所変わるだけじゃない。また、いつでも会えるわよ」
星羅は笑顔で喋る。
星羅「わかりました。違う事務所になっても、先輩は先輩ですからね。ちゃんと仲良くしてくださいね?」
羊子「もちろんよ」
立ち上がって星羅に背中を向け空を見上げる羊子。
#56○道(夜)
呆然と歩いている羊子。
車のクラクションが鳴る。
スローモーションで近づいてくる車。
羊子はゆっくり目を閉じる。
#57○遊歩道(回想)
穏やかな光の差し込む遊歩道。
散歩する蛇子と5歳の羊子。
蛇子を見上げる羊子の顔。
笑顔で駆け出す羊子。
蛇子「危ない!」
とっさに繋がれた手。
横断歩道の前を通り過ぎる車。
蛇子が笑顔で羊子を抱きしめる。
しゃがみ込み頭を撫でる母親。
母親の笑顔。
#58○道(夜)
急ブレーキをする車。
ドライバーの声「危ねえだろ!」
再び呆然と歩きだす羊子。
#59○新宿(夜)
ビル、ビル、ビル。
パトカーの音。
走る車。
地面。
捨てられたゴミ。
暗い夜道を呆然と歩く羊子。
天を仰ぐ羊子。
#60○羊子の家の前(夜)
玄関のインターホンの前で下を向いて立っている釜田。
釜田「よ、羊子ちゃん、元気?ちょっと心配になって寄ってみたんだ」
遠くから隠れて見つめる羊子。
腕組みをしている釜田。
その場を立ち去ろうとする羊子。
振り返って歩き出したした瞬間に眼の前に立つ星羅。
星羅は肩で息をしている。
星羅「せ、先輩!やっぱり明日は一緒に…」
釜田は星羅の声に気づき羊子の居る方に近づくと羊子と星羅を発見する。
羊子「釜田さん、本当にごめんなさい」
釜田「もう!心配したんだから」
羊子は涙を流しながら首を縦に振る。
星羅「私たちずっと友達ですよ」
羊子「私、本当は…」
釜田は優しい表情で頷く。
#61○羊子の部屋(夜)
スマホを手に話す釜田。
釜田「もしもし?ああ。羊子ちゃん見つかったよ。…家に居た。」
釜田は話しながら他方を見る。視線の先には神妙な様子で話している星羅と羊子。
釜田「ちょっと悪いんだけどさ。お酒買ってきてくれない?」
#62○パーティールーム
はしゃぐ蛇子
#63○羊子の部屋(夜)
笑顔で穏やかに飲んでいる釜田と星羅と零子と羊子。
4人の友情を表現するセリフを追加する。
星羅「え?釜田って元芸人だったの?」
#64○羊子の家 外観(明け方)
鳥の鳴き声。朝焼け。
床で寝ている星羅の顔を窓から差し込む朝日が照らす。星羅の頬を零子が叩く。
零子「ほら、星羅行くよ、仕事。」
星羅「やだ、先輩も一緒に行くんだもん」
釜田「ほら星羅ちゃん肩貸しな。」
先に部屋を出ようとした零子が立ち止まる。
零子「…羊子。」
羊子「ん?」
零子「困ったことがあったらいつでも連絡しなさい。」
羊子「うん。ありがとう。」
部屋から出ていく釜田と零子。
星羅「先輩、一緒に行こうよ。辞めないでよ」
羊子「はいはい。」
鍵の音。(鍵が開いたと思って)玄関ドアが引かれるがドアは開かない。再び、鍵の音。
部屋の中に入ってくる蛇子。
蛇子「おい。一体どういうことだ?」
驚いている釜田と零子。
蛇子「もう関係ないだろ?」
目を覚ます星羅。
蛇子「おい、お前、人んちで何やってるんだ?」
羊子「お母さん、待って!」
蛇子「出ていけ!この詐欺師ども!」
蛇子はあたりに置いてあったものを手当たりしだいに蹴る。
蛇子を止めようとした羊子を振り払う。
振り払われた羊子は目の前においてあっったペンを握り、蛇子を睨み刺そうとする。
星羅「羊子さん、ダメ!私出ていくから。ね?ね?ダメだって」
羊子はペンを握っていた手を降ろし脱力する。羊子は涙目で蛇子を睨む。
羊子「ここは私の部屋よ!」
蛇子「はあ?」
羊子「ここは私の部屋よ!」
蛇子「お前は親の言うことが聞けないのか?そんな風に育てた覚えはないぞ」
釜田「羊子ちゃん…今からでも間に合うんだよ?」
釜田は羊子の手を握る。
蛇子「お前、ウチの娘に何やってるんだ」
蛇子は羊子の手を引っ張る。
羊子は上に向かって泣きながら叫ぶ。
羊子「もう止めて。お母さん、言うこと聞くからもう止めて」
蛇子は羊子の手を離した後、勝ち誇ったように言う。
蛇子「わかったか。さっさと出ていけ!」
画面暗転。
#65◯パソコン画面
光るメガネをかけ、赤い鼻がついているアニメキャラが画面で喋っている。
羊子「みなさん、こんにちは!毒親サバイバーのメーコです。生きてるだけでアナタは偉い…」
#66◯羊子の部屋
PCの前で座って喋る羊子。
六畳一間の部屋。部屋の電気は消えていてデスクライトだけがついている。
羊子「…嫌なことから逃げて今日もサバイブしていきましょう!じゃあ、今日も元気に配信していきますね。」
PCの脇に飾られているたくさんの写真。釜田と零子と星羅と羊子の集合写真がクローズアップ。日付は2018年12月8日。
羊子「今日は毒親育ち当事者の私が思う毒親あるある20連発をしていこうと思います。私の身近な体験や他の毒親育ちさんから聞いた話になります。」
#67○パソコン画面
光るメガネをかけ、赤い鼻がついているアニメキャラが画面で喋っている。
羊子「その1…絶対に謝らない。毒親は明らかに自分が悪いことをしても絶対に謝りません。むしろ、謝ったら死ぬのでは?というぐらい謝ることへの拒絶反応が強いです。その2、でも子供には謝れという。自分は絶対に謝らないのに、子供には何かと難癖をつけて謝りなさいって言ってきます。」
#68○事務所
零子のその後の人生を描く?
芸能事務所で働く零子。社長とのやり取り。
零子「最近、毒親ユーチューバーが流行ってるらしいよ。」
売れてる星羅の描写
羊子の真似をして社長に意見をいう。
大関がカメラマンとして活躍している。
#69○羊子の部屋
PCの前で座って喋る羊子。釜田が後ろから羊子を見ている(誰かは確認できない)。手にお盆を持っている。お盆の上にはコーヒー。
羊子「その9、世間体や他人の目を気にしている。
毒親は世間からの評価を気にしてすごく怯えていると思うんですよね。10、子供に人権はないと思っている。どんな毒親にも共通する傾向として子供を一人の人間として見てないっていう傾向があると思うんですよね。11、親という存在だけで偉いと思っている。これは世間一般的にもこういう考え方が染み付いていると思うので。子供を生んで親っていう肩書を得ると、なんかね、すごい自分は偉いって思う人がいるんですよ。」
#70○パチンコ屋
蛇子のその後の人生。
パチンコ屋に行く
羊子のYou Tubeを見て鼻で笑うが、羊子のおかげで生活できている事を描写。彼女の中にも羊子の存在が確実に生きている。
#71○スマホ画面
手に持たれたスマホ画面の中で羊子が喋っている。チャット欄に誰かが書き込みをする。『これ全部に当てはまってるのに母親を嫌いになれない自分が一番辛い』
スマホを持つ手が書き込みをする。『同じ同じ!泣けてくる』
誰かがスマホ欄に書き込みをする。『なぜ嫌いになるようなことばかりするのに、同時に嫌いになると罪悪感を植え付けてくるのでしょうね』と表示。
#72○羊子の部屋
PCの前で座って喋る羊子。釜田が後ろから羊子を見ている。羊子に向かって歩み寄る釜田。
羊子「毒親とはね、まともに向き合っちゃ駄目。だって話し合って分かる相手なら、こんなことにはなっていないから。とにかく、そっと距離を置くべきよ」
羊子の目の前に置かれるコーヒー。
羊子は喋りながら釜田を見て笑顔で返す。
釜田は羊子に穏やかな笑顔をする。
おわり
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